導入事例: 和歌山大学教育学部附属中学校様
ICT でアイデアを速やかに、分かりやすく共有する
和歌山大学教育学部附属中学校は、GIGA スクール構想以前の 2019 年度から iPad の一人一台体制を実現するなど、学校の ICT 化に向けた取り組みを行ってきました。さらに、2021 年度には、GIGA スクール構想で一人一台端末に加えてキーボードの整備が必須とされていることを踏まえ、iPad に装着できるカバータイプのキーボードを導入しました。
和歌山大附属中で ICT 教育主任を務める矢野充博先生は、こうした同校の ICT 化や、コロナ禍におけるオンライン授業の取り組みを主導してきました。矢野先生は、ICT 端末を活用した生徒同士の学び合いを実現するため、デジタルノートアプリ(ロイロノート・スクール)を使って、生徒が自分の意見を仲間と共有しながら学びを深める授業スタイルに取り組んでいます。
デジタルノートに生徒が自分の考えを書き出して仲間と共有している様子
このような授業法を実現するにはタイピングが不可欠です。デジタルノートアプリは手書きでもタイピングでも使えますが、手書きで記入した文字は他の生徒にとって読みづらく、伝わりにくいことがあります。「自分の意見を速やかに、そして分かりやすく共有するにはタイピングが必要」と考える矢野先生は、生徒のタイピング能力を底上げするため、今年度から「プレイグラムタイピング」によるタイピング指導を始めました。
タイピング重視の方針に対し、家庭からは「キーボードばかり使っていると漢字の書き方を覚えられないのでは」と不安の声も挙がったそうです。しかし矢野先生は、手書きとタイピングは両方とも身につけるのが大事だと考えています。タイピング能力が上がれば、良いアイデアが浮かんだ時に素早く文章としてアウトプットし、それを ICT 端末を通じて他人と共有する力が育まれるからです。
タイピング初心者の底上げに大きな効果
矢野先生は、5月頃に授業でプレイグラムタイピングを紹介し、休み時間や持ち帰り学習での自主的な練習を促しています。今回、矢野先生のご協力の下、5月と6月の二回に渡って生徒たちの実力測定とアンケートを行い、その結果を集計していただきました。
まず、5月の結果です。タイピングに対する和歌山大附属中の生徒のモチベーションは非常に高く、7割以上の生徒が週に一回以上、プレイグラムタイピングでタイピング練習に取り組みました。
その後、6月に再度「腕試しモード」で生徒のタイピング能力を測定し、その結果を比較していただきました。一ヶ月が経過した後も多くの生徒が練習を続けており、特に初心者の能力の底上げに効果があったといいます。
チームで協働して新たなものを創造する力を養う
このように生徒のタイピング能力が底上げされた結果、多くの生徒が短時間で 100〜200 文字の文章を入力できるようになり、デジタルノートを使った作文の課題に取り組むことができるようになりました。
一例として、各クラスの帰りの会で先生が様々なお題を出してデジタルノートへ入力させる活動を行っています(一日の振り返り、仲間へのメッセージ、学校行事への意気込み、好きなアイスの銘柄、など)。また、同校では生徒が朝礼のスピーチを当番制で行い、それを聴いて他の生徒が感想を書いて先生に提出するという取り組みをしていますが、これも、デジタルノート上で先生と直接やり取りする形へと進化しました。
こうした取り組みを通じて、生徒が自らのアイデアを素早く文章にする力が鍛えられたことで、デジタルノートを活用して、生徒が自分の意見を仲間との間で即座に分かりやすく共有できるようになりました。これは、ICT を活用しない従来の紙ベースの作文では困難だったことです。
矢野先生は、授業の ICT 化の究極的な目標は、生徒が ICT を通じてチームとして協働し、新しいものを創造できるようになることだと考えています。和歌山大附属中では、タイピングの習得を通じて、生徒が互いに情報を共有し、アイデアを出し合って、課題を解決するという学び合いのサイクルを回すことができるようになりつつあります。
生徒たちからのコメント
生徒の皆さんに、タイピングの練習を通じてできるようになったことや、嬉しかったことについてアンケートしてみました:
- 授業の振り返りや、まとめなどでiPadを使うときに、早く打てるようになったので、時間に余裕を持てるようになりました
- 物語などを考えて、とても長い文章も短い時間でかけるようになった
- 振り返りを書いたりするときにかかる時間が少なくなった
- Googleなどで調べるときに早く調べれる
- 動画編集が早くできるようになった
- ローマ字を覚えれるようになった
- 間違えにくくなって、タイピングが早くなった
- 間違いなく打てるようになった。友達に打つの早いねと言われた
- 時間が少ない時に早く打って時間に間に合うようにできた
- 両手で入力できるようになった
- 勝手に手が動いてるなと実感した時
- 少しずつだけど、前よりも打つスピードや、正確に打てるようになりすごく嬉しいです!
- キーボードの配置を覚える事ができ、正確に早く打てるようになった
矢野先生からのコメント
iPadを1人1台で活用して3年目になりますが、キーボード付きのケースを全員が使うのは、今年度が初めてです。
これまで本校の生徒のうち、重量があるのでキーボード付きのケースをつけている生徒はそれほど多くなく、ほとんどの生徒は軽いケースを選択するため、iPadのソフトウェアのキーボードや手書きで入力をしていました。私もさほどハードウェアのキーボードの重要性は大きく捉えてはいませんでした。
しかし、ハードウェアのキーボードでの入力を4月から続けている生徒を見ていると、感覚的にはこれまでの生徒よりもはるかに文字を入力する速度が速く感じます。それはしっかりとした打ち心地が入力スピードを高めているんだと思います。
ロイロノートに関しては、以前は、カードに手書きをする生徒が多かったですが、今ではキーボードで文字入力する生徒の方が多いです。手書きには手書きの良さがありますが、文字入力の方がクセがなく誰にでも読みやすいので、情報伝達に関しては、スムーズに行えています。
また、自分が考えていることをまとめて整理したり、他者に伝えようとしたときに、文字入力に時間がかかってしまうと、自分の考えがどこかへ逃げてしまうときがあります。少しでも正確に速く打つトレーニングを積んでいれば、自分の考えをうまく整理して伝えることができます。
始めてわずか2ヶ月ですが、初心者層がレベルアップを果たしました。さらに、これからも続けていくと中級者層がじわじわとスピードや正確性を高めてくれると思っています。
これからもプレイグラムタイピングを楽しみながら続け、学びを支える基礎的なスキルの向上に期待しています。
写真提供
和歌山大学教育学部附属中学校様