導入事例: 愛知県立杏和高等学校様
自らの思いを意のままに表現する力を育む
総合学科の愛知県立杏和高等学校では、進学の支援に加えて、就職のためのキャリア教育に力を入れています。その一貫として、全ての生徒に入学時からタイピングを指導してきました。
また昨今、教育のデジタルディバイドを防ぐために生徒のタイピング能力の底上げが急務となっています。愛知県では、GIGAスクール構想の推進やコロナ禍の拡大といった課題に対応して、授業への「デジタルノート」の導入やオンライン授業の体制強化が進んでいます。デジタル化が進む学校授業を円滑に運営するには、ICT 機器の活用の基礎となるタイピングを、生徒たちに着実に身につけさせる必要があります。
それだけではありません。同高校情報科の魚住惇先生は、生徒たちが「自らの思いや考えを ICT 機器を通じて意のままに表現し、発信できるようになってほしい」と考えています。情報化社会の進展により、手書きの文章を身近な人たちとやり取りするだけでなく、コンピュータを通じて多くの人に向けて手軽に発信することができる時代になったからです。
コンピュータを活用して質の高い文章を書く技術である「デジタル作文術」は、現代を生きる子どもたちにとって進路を問わず養うべき大事なスキルです。しかし、やはりそれも、基礎となるタイピング能力がなければスタートラインに立つことはできません。
杏和高校で生徒にタイピングを指導する情報科教諭の魚住先生
タイピングの苦手な生徒に立ち塞がる高いハードル
魚住先生は、生徒へのタイピングの指導法に大きな課題を感じていました。
先生は、教育現場での効果的な ICT 活用について研究と実践を行い、そのノウハウをまとめた書籍『教師のiPad仕事術』を出版するなど、授業のデジタル化に率先して取り組んでこられました。また、キーボードやタイピング技能の習得について豊富な知見を持ち、それを生徒への指導に活かしてきました。
その先生をしても、タイピングの苦手な生徒への指導は難しい課題でした。これまで、世に出ている様々なタイピング教材を検討して授業に取り入れてきましたが、「全くタイピングができない生徒には、練習を一年間続けさせても身につかなかった」といいます。
魚住先生によると、教育現場でのタイピング指導には二つのハードルがあります:
- ローマ字入力(母音と子音の組み合わせ方)が分からない
- キーごとの正しい指使いが分からない
結果として、これまで導入した教材ではこれらのハードルを抱える生徒の躓きを解消できませんでした。
入学から二ヶ月でタイピング力が大幅に向上
「プレイグラムタイピング」は、この二つの課題の両方に応えることを目的として開発されたタイピング練習教材です。プレイグラムタイピングでは、チュートリアルが充実した「基礎練習」モードを通じて、ローマ字入力を五十音表に沿って順番に学習できます。また、キーを押す際の指使いが練習画面にビジュアル表示されるようになっています。これを真似しながら問題文を打つことで、それぞれのキーをどの指で押せばよいか自然と身につきます。
そこで魚住先生は、令和三年度から一年生の全クラスの授業にプレイグラムタイピングを導入しました。具体的には、情報の授業の最初の10分間や課題が終わった後の空き時間に、プレイグラムタイピングでのタイピング練習を取り入れました。
この際、まずは指使いの習得に専念させるため、生徒に対し「練習画面に表示されるキーボードと指使いだけを見て練習しよう。入力する文章は見なくてもよい」とアドバイスしているそうです。プレイグラムタイピングは、ローマ字入力を五十音順に進めるカリキュラムとなっているため、画面を見ながら正しい指使いを一つずつ順番に覚えることができる点が優れているといいます。
その結果、昨年までは一年を通して練習に取り組ませても大きな成果が上がらなかったのに対し、今年は入学からわずか二ヶ月で、当初は全くタイピングができなかった生徒でも、デジタルノートアプリを通じて先生と文章をやり取りできるまでになりました。特に、これまでタイピングを練習してこなかった生徒ほど高い効果が得られたそうです。
下のグラフは、あるクラスで、プレイグラムタイピングで二ヶ月練習した生徒たちが「腕試しモード」で実力測定した結果を集計したものです。生徒たちの多くが、全国の高校生の平均タイピング速度(※)を上回っていることが分かります。
生徒のタイピング速度
魚住先生は今回の成功を受けて、今後はこれまでできなかった「自分で文章を書かせる」課題を取り入れることを計画しています。
(※)平成28年度に文部科学省が実施した「情報活用能力調査(高等学校)」によると、高校二年生の1分間あたりの入力文字数は 24.7 文字です。これを1秒間あたりの打鍵数に換算すると約 0.7 タイプ/秒になります(ローマ字入力で1文字の入力に要する打鍵数を 1.7 タイプとした場合)。
生徒たちからのコメント
杏和高校の生徒の皆さんからいただいたコメントの一部を紹介します。以下は、生徒さんが自分の手でタイプして送ってくださった文章をそのまま掲載しています(太字は筆者):
- シンプルでやりやすい。指を見なくても出来るようになれそう。基礎からできるからすごくいい。苦手なキーを特定してくれるからすごくいい。
- 私は、タイピングが苦手ですが、そんな私でも楽しくタイピング練習をすることが出来ました。文字も見やすく、速さで、焦るゲーム要素がなく、ゆっくりでしか打てない私でも落ち着いて打つことが出来ました。
- 始めのところは、FやJしか出てこなかったのでどのアプリでも良いのではと思ったけれど、あ~わのローマ字を順に何度も練習していったのでアイウエオの指位置が自然と分かるようになりました。なのでよかったです。
- タイピングをするときキーボードを見ないとできなかったのが、できるようになったので良かったです。どの指でキーボードを押せばいいかわからなかったので勉強になりました。
- 指がついているから下を見なくてもわかりやすくポンポンって進んでいくからたくさんやっちゃう。いろんな機能があるから楽しい。苦手なキーも練習できるからいいと思いました。
- 自分の苦手な部分がわかってすごくよかったです。指の位置もわかりやすくて、よくわかったです。苦手な部分がたくさん出るのでやりがいがあったです。特訓の場所で同じ問題が出るわけではないのでやりがいがありました。
- 自分の苦手な部分を練習できてよかったです。ことわざを覚えながらできていいと思いました。自分で難易度を選べるので自分のレベルで練習できるからやりやすいと思いました。
魚住先生からのコメント
プレイグラムタイピングのおかげで、1年生の早い段階から授業のデジタル化を実現することができました。タッチタイピングは、これからの令和の時代の授業に必須なスキルです。情報の授業で生徒たちがタイピングをマスターすれば、他の科目の授業にも還元できます。
パソコンの操作に不慣れな生徒の多くは、タイピングを苦手としています。1人でも多くの子どもたちからキーボードへの苦手意識を払拭するために、今後もプレイグラムタイピングで指導していきます。
先生のプロフィール
愛知県立高等学校情報科教諭。スクールプランニングノート公式手帳達人。HHKBエバンジェリスト。ScanSnapプレミアムアンバサダー。著書に『教師のiPad仕事術』 。
メディア掲載歴: ねとらぼ、スクールプランニングノート公式ガイドブック、週刊教育資料、など多数。
生徒に向けて愛用の Happy Hacking Keyboard (HHKB) を掲げる魚住先生
写真提供
愛知県立杏和高等学校様